皆さん、「ピクサー」と聞いたら何を思い浮かべるだろうか?
トイ・ストーリー、モンスターズインク、ファインディング・ニモ、カーズなどなど人それぞれ思い浮かべるアニメーションに違いはあるだろうが子供向けアニメを作るスタジオだという印象だろう。もう少しコアなファンであれば、冒頭に動くランプが出てくる映像で有名といった答え方をするかもしれない。
僕は断然「トイ・ストーリー」だ。なぜかというと初めて映画館で見た作品がこのトイ・ストーリーだからだ。
小学生だった僕は初めて映画館に連れて行ってもらえるということでテンションが上がっていた。だがその時に観に行く作品については不満を持っていた。小学生の間では聞いたことがないディズニーアニメーション、「トイ・ストーリー」だったからだ。(トイ・ストーリーが映画館で上映されているとき、ピクサーという名前は映画のクレジットには出ていなかった。その理由は本書に書かれている)
当時の同じクラスの友達との間で話題になっていたのはドラえもんやポケモンの映画ばかりだった。「どうせなら劇場版限定のおもちゃがもらえるドラえもんやポケモンの映画が見たかったな~」と思いつつ、テレビでしか見たことがなかった映画館という存在にワクワクしていた。
だがトイ・ストーリーを見終わったらその面白さに感動してしまい、初めての映画館体験の感動は作品により薄められてしまった! 映像が立体的で今にも飛び出してきそう、しかもおもちゃが自分の見ていないところで冒険していたらというストーリー設定がしばらく頭から離れなかった。
そのためこの本を読むまでは「ピクサー」と聞けば「トイ・ストーリー」くらいの印象しかなかった。「ジブリ」と聞いて「トトロ」や「ラピュタ」が出てくるのと同じような感じだ。ピクサー映画のファンの方々からは怒られてしまうかもしれないが、ディズニー映画との違いもよくわかっていなかった。
そんなピクサーは3Dアニメーション制作会社だ。正式名称は「ピクサー・アニメーション・スタジオ」である。そんなピクサーがどんな軌跡を辿ったのかが書かれた本なのである。
この本が発売された時は大きな本屋に行くと大体ビジネス書コーナーに平積みされていた。嫌でも目につくオレンジ色の表紙に「PIXAR」の文字がデカデカと印字されている。最初、僕は立ち読みする気にもなれなかった。洋書のビジネス本はなんとなく読むのに苦手意識があったからだ。
ペーパーバックと呼ばれるこの手の翻訳されたビジネス書はA5サイズでページ数が多い。ビジネス書は通勤の電車の中とかで読みたい派なので、ジャケットのポケットに入らないこの大きさの本は買いたくないなと思った。また翻訳されたビジネス本の独特な文体と構成は読むのが疲れてしまう。
しかしある日、友人が「むちゃくちゃ面白いから読んでみて!」と言ったのでシブシブ読むことにした。
読み始めると確かに面白い! ピクサーのお金を管理する最高責任者の地位にいた「ローレンス・レビー」がアップルコンピュータで有名なスティーブ・ジョブズにスカウトされるところから物語はスタートする。当時のピクサーは赤字をタレ流し続けるどうしようもない会社で、スティーブ・ジョブズが自分のポケットマネーで支えている状況で、その状況をなんとかしたいジョブズがレビーに声をかけたのだ。
レビーの主観で書かれていて、ジョブズとピクサーで働く従業員の間との板挟みやディズニーとの激しい交渉、会社運営とアニメーション制作のための資金集めと目まぐるしくシーンが変化していく。ハッキリ言ってこの本だけで映画が一本作れるんじゃないか? 読んでいてそんな風に思ってしまった。
アニメーションに限らず、一つの映像作品を作るのには裏で多くの人が関わっている。それは作品の最後に流れるエンドロールに書かれたスタッフの方々の名前から想像できる。この先エンドロールを見るたびに、この本を思い出し作品が製作されるまでの”ドラマ”を勝手に想像してしまいそうだ。
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